大動脈弁再建術手技について

大動脈弁再建術勉強会について

背景


大動脈弁疾患に対する従来の手術法は、大動脈弁を人工弁(機械弁あるいは生体弁)に置換する術式が標準となっています。しかしながら、人工弁は高額のため医療経済的に負担が大きい上に、生体弁は耐久性が課題であること、機械弁は術後生涯に渡り抗血液凝固剤を服薬する事による患者負担や出血性合併症が指摘されてきました。最近ではTAVR(経カテーテル大動脈弁留置術)が日本にも導入されましたが、現状では適応は手術に耐えられないと判断された高齢の方に限定されています。

歴史


大動脈弁再建術 (Aortic Valve Neo-Cuspidization)は、2007年より本邦で開始されており、国内外1500以上の症例で当術式を用いて治療が行われています。学会発表および論文にて良好な治療成績が報告されています(文献1,2)。来年で最初に実施した症例が10年に達し、より長期の成績が出てくることになります。
現在国内で40施設以上、米国、欧州でも20病院以上で導入が開始しており、国内外の学会等で施行実績報告があり、今後も増加する見通しです。

大動脈弁再建術の重要なコンセプト

自己心膜の使用

・自己組織であり免疫反応を惹起しない

・元々の弁尖よりも遥かに強度が強い

・安価である

というような点が挙げられます。

自己組織であるため 弁の石灰化が起きにくいという可能性が示唆されています。通常、弁の石灰化が進みやすいとされる透析症例において、AVNeoでは石灰化が認められなかったとの報告もあります(文献3)また、グルタルアルデヒドで処理をした自己心膜の強度については、通常の弁尖の約4倍の強度あることがわかっています(下記グラフ:文献4)

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大動脈基部の生理的な動きを保存

正常の大動脈は収縮期・拡張期で弁輪がダイナミックに伸展・収縮します。下記の動画は正常大動脈のイメージ動画ですが、

  1. 大動脈弁再建術術後も弁開放時に弁輪が拡大することによって、広い有効弁口面積を維持出来ます。そのことにより狭小弁輪に対しても術後の圧格差を低く保つことが可能です。
  2. 弁閉鎖時には、戻ってきた血流を大動脈基部全体で受け止めることで、確実な弁の閉鎖と同時に、mechanical stressを軽減します

人工弁による大動脈弁置換術後は、弁輪の動きが固定され、大動脈基部の自然な収縮・拡張が失われます。それにより、有効弁口面積が減少し、術後の圧格差が上昇する可能性があります。
以下は、正常の大動脈弁のエコー(左)と、大動脈弁再建術後(右)のエコーの動画です。(弁輪のスペクトルトラッキング法)

 

 

術後でも、通常の大動脈弁輪部のダイナミックな動きが維持出来ている事が分かります。

術後のARを起こしにくい弁設計

通常の大動脈弁では、交連部の高さ、弁尖の接触点(コンタクトポイント)の高さは患者ごとに異なっています。つまり、同じ弁輪径の大動脈弁でも

  • 弁尖のコンタクトポイントが低い場合 → free edgeが長い(下図の水色のライン)
  • 弁尖のコンタクトポイントが高い場合 → free edgeが短い(下図のオレンジ色のライン)

ということになります。

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弁尖のコンタクトポイントと各交連部の高さの4点を同一平面上に持ってくることで「各交連部間の距離」と「弁尖のfree edgeの距離」が一対一に対応し、交連部間の距離を計測することで容易にfree edgeの距離を決めることができます。一方、実際の弁輪の長さも個々の大動脈弁で異なるため、心膜弁尖の孤の長さを十分に長いデザインにし、弁輪の底部で縫い縮めることで、最終的に3つの弁尖の高さが揃うように縫合することが可能になります。そのため、コアプテーションを長く確保することが出来、術後のARを起こしにくくします。

1.心膜の採取

ハーモニック等を用いて、心膜表面の余分な脂肪組織を取り除いた後、数カ所に糸をかけて、縦8cm・横7cm程度採取します。

2.グルタルアルデヒド処理

ステンレスプレートには粗面を上にした状態で固定し、処理中に縮むのを防ぐために縫合糸で固定したあと、0.6%のグルタルアルデヒドに浸透します。固定前に余分な脂肪組織は取り除きます。グルタルアルデヒドで10分間処理した後は、心膜の洗浄処置を行います。

3.心膜の洗浄

糸を切ってステンレスプレートから心膜を外し、生理食塩水でグルタルアルデヒドを洗い流します。6分間の洗浄を3回繰り返します。

4.交連部間の計測

大動脈をクランプし、大動脈弁を露出させ、弁尖を除去します。その後、サイザーを用いて交連部間の距離を計測します。サイザーの片側の角の部分を片方の交連部の位置に合わせ、もう片方の交連部にしっかりと他側の角の部分を合わせます。その際、しっかりと大動脈壁にあてることが重要です。サイザーの両方の角が、2つの交連部(又はその延長上のライン)と一致するまで繰り返します。サイズが確定すると弁輪の中心にマークをします。LCC、RCC、NCCと計測し、そのサイズを記録します。

5.心膜の切り出し

洗浄した心膜を、ガーゼで水分を拭き取った後、滑面を上にした状態でステンレスプレートに載せます。ペンとテンプレートを用いて、計測したサイズに応じた3つの弁尖を心膜に描きます。心膜は横隔膜付近で厚いため、大きなサイズの弁尖を横隔膜に近い側から切り出すようにします。外周を描いた後、ウイングエクステンション用の「ドット」、弁尖の中心部に長めの線を加えた後に、テンプレートに従い縫合用の「ドット」を描きます。心膜を厚紙(カテーテルなどを開けた際のもの等)に貼り付けたあと、描いた線の外側のラインに沿って弁尖を切り出します。弁尖の両側に幅5mm程度の「wing」が出来るようにします。切り出した弁尖は、使用するまでシャーレで生理食塩水に浸します。

6.弁尖の縫合

弁尖を弁輪部に縫合する際には、弁尖の滑面を心室側にし、針は常に弁尖の粗面→弁尖の滑面→弁輪下部→弁輪上部という順序で針が通るように運針します。糸は4-0プロリンTFを使用します。
まず、弁尖の中央のドットと、対応する弁輪の中央のドットに針を通し、3回縫合します。その後、片方ずつ縫合します。弁輪の底部では弁尖上のピッチに対して、弁輪部のピッチは1/3の距離で縫合します。弁尖上のピッチは約5mm間隔なので、弁輪部では1.5mm程度のピッチで進みます。残りの弁尖の長さと残りの弁輪の長さを比較し、弁尖が弁輪より同等か少し長い程度になった段階で、弁輪部のピッチを弁尖のピッチと同じにします。弁尖のエッジから約5mm程度のドットが最後のドットです。最後から2番目のドットを通過した後の1針は、水平に大きくバイトを取ります。最後のドットに針を通したあと、針を持針器で伸ばし、交連部の最上点より約2mm下の位置で大動脈壁を通します。

7.交連部の形成

各交連部において両側から弁尖が揃った段階で、交連部の形成を行います。糸は4-0プロリンRB-1を使用します。
両方の弁尖の、最後の刺入部とエッジの中間点(弁尖の外周の内側)と「Wing」の端、合わせて4箇所に針を通し、大動脈壁を通します。大動脈壁の外側に5mm x 10mmのプレジェットを当て縫合します。プレジェットに針を通す際には、下から来る弁輪の糸は狭く、交連部形成用の糸はWingの幅分広く出します。結紮の前に交連部の弁尖の合わさりを調整する事が大切です。

 

 

文献


  1. Aortic Valve Reconstruction Using Autologous Pericardium for Aortic Stenosis
    Circulation Journal Vol. 79 (2015) No. 7 p. 1504-1510
  2. A total of 404 cases of aortic valve reconstruction with glutaraldehyde-treated autologous pericardium. Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery, 147(1), 301–306
  3. Aortic valve reconstruction with autologous pericardium for dialysis patients.
    Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2013 Jun;16(6):738-42
  4. Tensile strength of human pericardium treated with glutaraldehyde. Ann Thorac Cardiovasc Surg. 2012;18(5):434-7. Epub 2012 Apr 27.